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ストーリーVol.7 Eri Shiota

真っ白な壁に、よく磨かれたフローリング。
サッとひかれたカーテンの向こうからは、微かに生活の音が流れ込んでくる。
私が初めてヨガセラピスト協会を訪れたのは、横須賀にスタジオを移転して間もないころ。
正直に言うと、その“なにもない”光景に少し驚いた。
優しく微笑む暁子先生の眼差しに触れると、私の中に渦巻く感情がすうっと溶けて、透き通っていく。
なにもない空間は、私という存在をありのままに受け入れるための余白だ。
数あるヨガスタジオの中でも、そんな居心地の良さを感じたのは初めてのことでした。

私は幼いころから、人の評価を気にして生きてきたように思います。
もともと大人しい性格で、特にこれといってやりたいこともなく過ごした10代。
長女という責任感も手伝って、父の仕事を手伝うためにIT関係の学校に進学し、就職しました。
「そうしたい」というよりは「そうすべきだ」という選択の繰り返し。
最善を尽くしているはずなのに、虚しさだけが募っていく日々を過ごしました。

仕事も家庭もうまくいかない。
そんな生活が我慢の限界に達したとき、私は家を飛び出しました。
趣味だったサーフィンとフラダンスのショップでバイトを始め、そこで新しい恋に落ち、子供を授かった。
目的地のない各駅停車から、行きたい場所へと連れて行ってくれる快速特急に乗り換えたかのような気分。
ただしその特急列車は、あっという間に途中駅をも通過して行った。
気がつくと私は、二人の幼い息子を抱えたシングルマザーとなっていました。

ヨガを始めたのは、二人目の出産が切迫早産となったことがきっかけ。
女性特有の身体の不調に悩まされ続けており、その解決の糸口をヨガに求めたのです。
いくつかのヨガスタジオを経て、暁子先生の元へと辿りつきました。

ひとことでいうならば、心と身体が癒された。
それこそが、ヨガセラピスト協会のスタジオで私が体験したことです。
それまでの私は、とてもたくさんのことと闘っていたように思います。

子供に寂しい思いをさせてはいけない。
母親役も父親役も一人で果たさなければならない。
自分のやりたいことがわからなかったあの日には、戻ってはいけない。
だから私は、今の生活を楽しまなければいけない。
自分で作り上げた、たくさんの「こうでなければいけない」に囲まれ、苦しかった。

「嫌な思い、怒りを感じたときこそ、その感情を噛み締めてください」
「血圧が上がり、頭が痛くなることを回避せずに、ただ、感じてください」
産後鬱・育児鬱の淵にいた私にとって、暁子先生から投げ掛けられたそれらの言葉は、深く深く突き刺さりました。
暗い部分をかき消そうと、無意識のうちに光ばかりを追いかけていた。
強い光は、必ず深い影と隣り合っているということを忘れて。
私は、自分の影を厭い、目を背け、否定した。
そんな暗がりに真正面から立ち向かい、見つめ、受け入れてみると、行き場を失い淀んでいた感情が、少しずつ流れ出していきました。
心と身体をほぐして、自然の流れに身を委ねることで、自分の中が新鮮な空気で満たされていくように感じました。

ヨガセラピスト協会を卒業後、奄美大島へと移住することにしました。
一番の理由は、二人の息子たちとともに過ごす時間を、もっと大切にしたいと思ったから。
荒波に押し流されてしまわないよう常にどこかに緊張を強いられる生活から、ゆったりとした流れに身をまかせることができるような、そんな生活にシフトしていきたい。
そのために、生活環境を変えるチャレンジをしてみようと思いました。

離島への移住は、私や息子たちにとってはもちろんのこと、地元の方々にとっても初めての経験でした。
真新しさに心が弾み、眼に映るもの全てがキラキラと輝いて見えた。
島で生まれ育った方々にとっての日常全てが、私たちにとっては特別でした。

移住して2年目。
子供たちと過ごす時間は増えたというのに、もと居た場所での生活を懐かしむようになっていました。
それでも私は、奄美大島を離れようとは思いませんでした。
息子たちの送り迎えで車を走らせると、必ず眼に飛び込んでくるのはグラデーションの水平線。
全てを吸い込む深い群青色。
力強く燃える茜色。
眩しく世界を照らす黄金色。
留まることを許す漆黒の色。
豊かで美しい大自然が、一歩前に進む力を、いえ、決して前に進まなかったとしても、今までの自分自身を肯定し受け入れる勇気を与えてくれました。

家族、ヨガ、大自然、、、
様々なものに支えられて、いま、私はここにいます。
私が私自身であることを肯定してくれた、あの何もない空間を他のだれかのためにつくりたい。
「I and sea〜心と体のホッとサロン〜」は、そんな思いから立ち上げました。

スタジオに来る方は、定期的に通うというより、思い出したかのようにフラリと現れる方が多いです。
スタジオに訪れ、ご本人にも思いがけず涙をこぼし、最後にはすっきりとした顔で帰っていきます。
疲れている人がホッと一息つける場所。
そんな場所にしていけたらな、と思います。

家庭の悩み、女性の身体に関する病、新しい生活への挑戦。
私はこれまで、様々な経験をしてきました。
きっと、辛い経験をしている人はたくさんいると思います。
それでも笑って生きている人も、たくさんいます。
無理せず心から笑う女性の表情は、世界を明るくする。
私はそう確信しています。
なぜなら、今の私自身が自分の笑顔に励まされているから。